診療過程と健診・人間ドックにおける見落としは分けて考えます

診断内容の誤りとは、検査結果を見誤る(いわゆる見落とし)場合を指します。例えば、画像検査を行った際に異常陰影を見落とした結果、後に重大な疾患が判明した、あるいは分娩監視装置のデータを見誤った結果、急速遂娩の時機を失するなどの医療過誤事例は多くあります。

このケースは、見落としに対する医療水準が正面から問題になることもありますが、①患者が異常を訴えて診療を受けている過程での見落としと、②定期健康診断や人間ドックにおける見落としとは分けて考えるのが一般的です。

①の診療過程における見落としは、患者に主訴や検査値に異常があることを前提して、原因の確定と治療のために更なる検査を実施したわけですから、後に患者に重大な疾患が判明した際に、医師側が「その疾患は自分の専門外だから」、「開業医だから」といった主張で責任を回避することはできません。

その医師が異常の原因を確定できないのであれば、他の専門病院等に転医ないし転送させたうえで、改めて検査を受けさせなければならないだけのこと、と判断されるからです。

一方、定期健康診断ではどうでしょうか。例えば、胸部X線検査で肺がんの見落としが問題となった事案において、患者側(原告)は「読影医の注意義務はレントゲン写真の読影専門医の注意義務を基準とすべきである」と主張しました。

この主張に対して、東京高裁は「一般臨床医の医療水準をもって判断せざるを得ない」とし、「定期健康診断は、企業等に所属する多数の者を対象に異常の有無を確認するために実施されるもであり、大量のレントゲン写真を短時間に読影するものであることを考慮すれば、その化課から異常の有無を識別するために意識化せられる注意義務の程度にはおのずと限界がある」との考えを示しました(平成10年)。

このケースでは医療水準の考え方を一般臨床医のレベルにおいて医師の責任を否定する方向で考慮していますが、一方で人間ドックに関しては、これとは違った高度な注意義務を認める判決例もあります。

例えば、人間ドックで便潜血検査を受けてその結果が「プラスワン」だったにも関わらず、「ツープラス」以上を異常と見なすというその人間ドック独自の判断基準で精密検査を見送ったところ、後になって受診者が結腸がんと診断された事案があります。

東京地裁は「人間ドックは病気の早期発見と適切な治療を受けさせるためのアドバイスを目的に行われるものであるから…(中略)…実施医療機関は異常を疑わせる兆候があれば、全て被験者に告知し、診断が確定できない場合には精密検査や再検査を受けて診断を確定するように促す高度の注意義務がある」と判断し、医療機関側の責任を認めています(平成4年)。

職場の定期健診と人間ドックでは、受診者の検査に対する期待や検査内容に差異があります。しかしながら、いずれも「異常のチェック」が目的であることから、定期健診であっても、異常を疑わせる兆候があれば被験者に告知して精密検査の受診を促す必要があり、これを怠った場合には検査実施機関の責任は逃れられないでしょう。

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