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医療訴訟の増加で、医賠責に未加入の勤務医は高リスクです

「自分は訴えられない」、「万が一の場合でも、勤務先の病院の保険がカバーしてくれるから大丈夫」などの理由で、医師賠償責任保険(医賠責)に未加入の勤務医の方は依然多く、専門家の間では「40歳代以降の半分程度は未加入」と言われています。

しかし、近年は勤務医も医療訴訟で訴えられるケースが増えています。「10年前は共同被告になるのは10%程度でしたが、現在は約50%です(医療訴訟に詳しい弁護士の森山満氏)。」 この理由としては、まず医師個人の責任を追及して、真相を究明したいと考える患者・家族が増えてきていることが挙げられます。

過去10年の医療裁判の件数の推移

もう一つの理由としては、病院の経営状況が深く関係しています。病院の経営が悪化する中、訴訟中に経営破たんするケースも少なくありません。そうなると、原告側としては、勝訴した際の賠償金を確実にするために、病院だけでなく担当医も共同被告として連名で訴えざるを得ないという状況になってしまうのです。

通常、病院は「病院賠償責任保険(病院賠責)」に加入しているため、仮に医賠責に未加入の勤務医が共同被告となっても、病院賠責で損害賠償分をカバーすることができます。

しかし、訴訟などの影響で患者が激減し、病院が経営破たんした場合、病院賠責で保険金が支払われても原告側に優先権はなく、他の債権と同等に扱われるので、賠償金額の多くを受け取ることができません。そうなると、原告側としては、共同被告の医師から補償を得ようとするわけですが、医賠責に未加入の医師は、自腹で支払うことになります。

さらに近年は、保険料の負担軽減のために、病院賠責の補償金額を低く設定する開設者が増加しているため、通常は1億円の最大補償がその半分以下というケースもあります。また、賠償金が高額な事例も出てきています。これらのケースにおいて賠償金額が最大補償額を上回ってしまう場合、医師と病院の開設者とでその差額を負担する必要も出てきます。

つまり、従来の「病院頼み」の姿勢で、医賠責に加入しないのは大変リスクが高いということになります。こうした状況の中、医療機関や学会で、勤務医の医賠責への加入を強く勧めるようになってきました。

医療訴訟の診療科別の件数

医師賠償責任保険の加入率は20代・30代の若手医師ほど高くなっており(約80%)、50代・60代と年代が高くなるにつれて低くなる傾向にあります。また勤務先の病床数と保険の加入率は比例しており、100床未満の施設では約50%、大学病院に勤務する医師では約90%の保険加入率となっています。

自分で保険料(年間5万円前後)を払って医師賠償責任保険に加入している理由としては、「医療訴訟のリスクが高い診療科(産科、整形外科など)で働いているから」、「常勤先の医療機関の事故は病院賠償責任保険が守ってくれるけど、自分は他の医療機関で定期非常勤やスポットのアルバイトをしているから」、「患者の死亡や後遺症などの事案が発生した時、自分も職場(大学病院)と連名で過失を追求されるかもしれないから」など、訴訟への不安が挙げられています。

一方で医師賠償責任保険に加入していない理由としては、「日常の診療で侵襲的な検査・治療を実施することはないから」、「診療科の訴訟リスクが低いから」、「万が一、医療事故で過失が認められても勤務先の病院賠償責任保険の補償額で十分と思うから」などの声が聞かれます。

研修医も訴訟リスクとは無縁ではなく、薬の過剰投与で患者が死亡した事例では、医療機関と研修医が連名で訴えられ合計8400万円の賠償を命じられています(2005年:埼玉地裁)。またCT等の検査で消化管穿孔を見逃して患者が死亡した事例では、初期臨床研修1年目の医師の過失が認定され、約2500万円の支払いを命じられています(2015年:静岡地裁)。

研修医の保険の加入状況

そのため、研修医を受け入れる臨床研修病院や大学病院では、施設の負担あるいは個人の負担で医師賠償責任保険に加入させるケースが増えています。上のグラフは、厚生労働省がアンケート調査した臨床研修病院と大学病院における研修医の保険加入の状況をまとめたものです。

医療の高度・複雑化、患者意識の高まりを見せる近年においては、上に掲載した診療科別の訴訟件数(円グラフ)が示すように、医療訴訟と無縁の診療科は存在しないと言っても過言ではなく、ある程度のリスクを想定する必要があります。常勤医は勿論、研修医、アルバイトの方も含め、勤務先の医賠責の加入状況を今一度確認しておくことをお勧めします。

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