問診や検査の実施を怠った結果、責任が追求されるケース

必要な検査の実施を怠っために医師の責任が追及される場合、①患者の主訴や症状を見誤り、必要な問診や検査を怠った「通常の問診・検査義務違反」と、②特定の疾患の確定診断に必要な検査の実施を怠った「特定の検査義務違反」の2つのケースが考えられます。

①は、患者の主訴や症状を見誤った結果、見落とした疾患を鑑別診断の対象から外してしまい、疾患の発見・治療等が遅れてしまうケースですが、裁判における医師の主張は「そのような疾患を疑うことはできませんでした」という内容になります。

このような場合、医師が見落としたとされる疾患を疑わさせる症状を患者が訴えていたかどうかが重大な争点となります。

クモ膜下出血の患者に対して胃腸炎と誤った診断を下した開業医の責任の有無を争った裁判において、福井地裁は「医師は患者の頭痛の訴えはなかったと主張しているが、一般開業医では患者の訴える全ての症状をカルテに記載することはなく、医師が主体と思った症状のみを1~2行程度しか記載しないケースが多い」などを理由に、カルテに頭痛の症状が記載されていなくても、それは医師が患者の頭痛の訴えを軽視して胃腸炎と判断し、胃腸炎に合致する症状のみをカルテに記載したに過ぎないという判断を下し、問診・検査義務違反で医師の過失を認めています(平成元年)。

したがって、医師が誤診を理由に責任を追及されないためには、患者の訴える症状あるいは患者の状態から得られた所見に関して、マイナス所見を含めて患者から得られた情報がそのまま正確にカルテに反映しておく必要があるといえるでしょう。

②の「特定の検査義務違反」は、がんなどの重大な疾患を診断できなかったことに対して、後日特定の検査の不実施を理由に医師の責任が追及されるケースです。

この場合の医師の主張は、概ね「その疾患の疑いも考えられましたが、その段階で必要と思われる検査は行っていました。」あるいは、「疑いはあったものの、その検査は○×という理由(老齢の患者への身体的負担を考えて…等)で実施することは差し控えました。」などとなります。

これらの主張を展開する場合、医療水準上問題となる特定の検査を実施する義務が医師にあったかどうかが問題となります。また、仮にその検査の実施義務までは認められなくても、患者側に対してそのような検査が存在することを説明するべきだったとして「説明義務違反」の主張がなされる場合もあります。すなわち、患者の自己決定権の1つである「選択権」の侵害にあたるという主張です。

これに対して、医師は検査の実施義務や説明義務がないこと、仮に検査を行っても問題となる疾患を診断するまでには至らなかった、さらには疾患を診断できたとしても、患者を助けることはできなかったであろうと因果関係を否定するなどの主張を展開することになります。

近年の裁判所の考え方を見る限り、医師がある疾患の疑いを持っていて、さらなる検査が可能であるにも関わらず、その検査を実施せずに、後日患者に重大な疾患が判明すれば責任を問われるのが原則となっています。

特に検査技術の発達により、従来と比較して非浸襲的な検査で確定診断がつく疾患が増えたため、裁判所が医師の検査義務違反の責任を認める傾向がますます強くなっています。

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