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転医(転送)義務:診療の実施が困難な患者は他の高次医療機関を受診させます

クリニックを受診した患者を診察した際、該当すると推測される疾患が医師の専門領域外であったり、あるいは総合病院であっても医療機関内に該当する診療科や診断を下せる医師がいないことがあります。

こうしたケースでは、該当すると推測される疾患を診察できる他の医療機関(高次医療機関)を受診するように患者に指示する、もしくは患者をその場で診察・検査体制の整った医療機関へ転送することが求められます。これを「転医義務」と言い、転医義務を怠った結果、裁判で注意義務違反が認められたケースがあります。

基準となるのは、医療機関における診察・検査の「医療水準」です。その医療機関の検査・診察体制が医療水準を満たしていないと判断された場合は、医療水準を満たした医療機関へと患者を搬送し、転医のための説明をする必要があります。

転医義務は、患者の症状から特定の重大な疾患が疑われる場合は勿論、検査も診療もできないので具体的な疾患が何かはわからないけれど、何らかの重大な病気の可能性があると認識しえた場合にも生じます。

実際の事例では、嘔吐の症状で輸液を受けていた小学生の患者に軽度の意識障害が見られたにもかかわらず、医師が適時に高度の医療機関へ転送しなかったため、脳に後遺症が残ったケースがあります。この事例では当該クリニックの検査及び治療の医療水準を超えた「なんらかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できた」として、搬送が遅れた医師を転医義務違反としています。(平成15年:最高裁)

診察したその場で患者を転送する緊急性が認められる場合、医師は転医先の医療機関に、例えば「TIA(一過性脳虚血発作)の患者をそちらへ搬送したのでよろしく」と一方的に連絡するだけでは義務を果たしたことにはならず、搬送前に転送先の医療機関に連絡して受け入れの承諾を得る必要があります。同時にこれまでの診療の経過、可能性が疑われる疾患などの患者の情報を受け入れ先の医師に説明する義務があります(昭和59年:名古屋地方裁判所、平成4年:名古屋高等裁判所)。

さらに医師は、患者を医療機関へ安全に送り届ける義務があるため、容体悪化の可能性が予見される場合には、適切な措置を行う必要があり、これを怠ると注意義務違反が認められることもあります。

転医の際に患者のバイタルサインの確認を怠り患者の重症度と緊急度が把握せず、救急車ではなく患者の家族の車で搬送した結果、医療機関に到着する前に患者が亡くなったケースがあります。この事例では当該医師の注意義務違反が認定されています(平成5年:静岡地方裁判所)。

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