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カルテに記載されない事項は、事実が「存在しない」と判断

患者の重要な症状、検査、治療行為について診療録(カルテ)に記載がない場合、それらの事実は存在しないとの推定が導かれ、ひいては医師の不注意の根拠となることがあります。

例えば、交通事故で左大腿部を切断した患者が、切断手術は必要なかったとして医師の責任が問われた事例があります。

医師は患部の汚染、組織再生不能、破傷風、ガス壊疽の危険性を根拠に切断の正当性を主張しましたが、水戸地裁は「血管や神経にどの程度の損傷があったのか、汚染の程度はいかなるものであったのか、筋肉の挫傷がどの程度であったのか等について診療録に記載がないのみならず、これらを推測させるだけの直接的事情も見当たらない。したがって、負傷部分の組織が再生不可能であったと判ずるのは証拠不十分というべきである」との判断を下しています(昭和47年)。

また、胆石手術を行う際、麻酔として使用した笑気+酸素の混合ガスによって、患者に低酸素脳症が生じた事例があります。

被告である医師は、術中に酸素欠乏が生じたならば患者の血圧が上昇したはずだと主張したのに対し、東京地裁は「血圧の変化については…(中略)…手術中における午後10時以降から麻酔挿入管の抜管時の午後11時30分までの血圧の変化の記録が全くなされていないのであり…医師の証言はにわかに採用することができない」との判断を示しています(昭和48年)。

ポイントは、鑑別診断等に必要な重要所見はプラスもマイナスも含めて必ず記載する、行った処置等は全て記載するという簡単な原則を守るだけのことです。

この原則に反して記載を怠った場合、後の裁判で「そのような所見はなかった」、「その処置は行っていなかった」と判断されても仕方がないということに注意すべきです。

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