
医師法の第24条1項では「医師は、診療をしたときは遅延なく診療に関する事項を遅延なく診療録に記載しなければならない」と定めています。
診療後しばらく経ってから、重要事項を思い出して追記しようとした場合、「遅延なく」の部分を満たしていないと解釈できなくもありません。
しかし、24条1項には、診療に関する重要な情報を残し、後に役立てられるようにしようという狙いや、記憶が確かなときに診療内容を記載してもらおうという意図があると考えられています。
忙しい診療時には、カルテに記入する時間も限られているため、重要な事項が抜け落ちてしまったりすることもあるでしょう。したがって、実際にあったことをカルテに記載する限り、後で思い出したものを追加することは全く問題ありません。
むしろ、カルテに記載のない事項は裁判において認定しないという裁判官がいる事実を考えると、後で思い出した重要な事項は積極的に追記しておく必要があるといえます。
ただし、裁判においては、「被告(医療機関側)が有利になるような内容を後で書き加えた」などと、カルテの改竄を主張する原告が少なくありません。
近年は、改竄の難しい電子カルテが普及してきましたが、こうした主張は依然として見受けられるので、手直ししやすいと思われる手書きのカルテに追記する際には、十分な注意を払う必要があります。
具体的には、診察時に記載した箇所に無理に記入すると、患者側から不自然さを指摘されやすいので、全く異なる場所に記載するといいでしょう。その際には、「○×年○月×日追記 医師○×」と付記するようにすれば、いつ、誰が加筆したのかが明確になります。