医療過誤に対する刑事処分は、刑法の第211条(業務上過失致死傷等)に基づき行われる事例が大半を占め、その目的は民事処分と異なっています。

民事処分では、医療機関に対して、患者に発生した損害の賠償を求める一方、刑事処分では国として医療側の社会的責任を追及すべきか否かが判断されます。
処分対象にも相違があり、刑事処分では、医療機関の開設者などは含まれず、医師個人に限られています。判決のための立証の程度も異なり、刑事処分の方が民事処分よりも、医療側の過失と患者の損害との因果関係をより強く立証する必要があります。
なお、医療過誤の場合、裁判に至らず、略式起訴・命令で処分が決まることが多いです。
民事処分 | 刑事処分 | |
(民法第415条 債務不履行責任、第709条不法行為責任など) | (刑法第211条 業務上過失致死傷等) | |
目的 | 損害賠償による被害者の救済 | 医師個人の社会的責任の追及 |
処分対象 | 医師個人や病院開設者など | 医師個人のみ |
立証 | 過失と損害の間に通常考えられる程度(証拠の優越の程度)の因果関係を必要とする | 過失と損害の間に高い因果関係(合理的な疑いを入れない程度)を必要とする |
処分内容 | 個々の判決に基づく損害賠償金の支払 | 50万円以下の罰金、もしくは5年以下の懲役・禁固 |