補償額の引き上げとペナルティー導入の是非が今後の課題

分娩時の医療事故で重度の脳性麻痺に陥った場合、医療側の過失の有無に関係なく、金銭的な補償を行う「産科医療保補償制度制度」。日本初の無過失補償制度として2009年1月にスタートした同制度では、原則として、在胎33週以上、体重2000g以上で出生した児を対象とし、総額3000万円が補償されます。

分娩機関は日本医療機能評価機構を通じて民間の損害保険に任意で加入しますが、全国の加入率はほぼ100%となっています。

分娩時に事故が起きた場合、家族が原因の究明と補償を求めて訴訟を起こすケースは少なくありませんが、裁判では公平な補償も原因の究明も難しく、事故の再発防止にも繋がらないという批判がありました。

その点、産科医療補償奨制度は、家族の補償だけでなく、分娩機関からカルテや検査記録を提出してもらい、第三者の立場で医師・弁護士らが事故の原因を分析し、再発防止に取り組む機能も併せ持つ画期的な制度、と評価されています。

では、制度の導入により、今後は産科の訴訟数が減少し、無過失補償制度が他科へも拡大していくのでしょうか? そのためには解決しなければならない課題がいくつかあると専門家は指摘します。

家族側は、原因分析で事故の際の医療が標準以下のものであると分かれば、報告書を証拠として、民事・刑事訴訟に持ち込むことができます。この際、訴訟に持ち込むか否かに影響を与える重要な要因として、補償額の妥当性が挙げられます。

現行の3000万円という補償額は、同制度を日本に先駆けて導入しているスウェーデンなどのヨーロッパ諸国に比べると、著しく低い金額です。訴訟は減らないとする根拠のひとつはここにあります。

ただし、この3000万円という数字は、対象となる重度の脳性麻痺の発生件数を年間で最大800件と見積もって決定されたものです。実際の件数はその1/4くらいと指摘する専門家も少なくないため、補償額を4倍(1億2000万)まで引き上げることができれば、結果的に訴訟を起こす家族は減ると考えられます。

もうひとつの課題は、医師に対するペナルティーを導入するかどうかという点です。現行制度では、明らかに劣る医療を行った場合でも、再教育などのペナルティーはありません。
医師としての刑事責任は問われなくても、職業人としての責任を果たすためにも、学会主導に研修など、最低限の教育的ペナルティーは必要であるという声は少なくありません。

同制度は2014年までに見直しが行われる予定ですが、今後どこまで成熟されるかが注目されています。

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