損害の法的評価に際しては、患者の職業、収入等を考慮します

患者側の損害の発生が損害賠償請求の要件となることは、当然のことであり、議論する必要もないと思われるかもしれません。しかし、突き詰めて考えていけば、難しい問題が出てきます。

例えば、病院側の手術ミスで下半身不随となってしまった場合、その損害をどのように評価するかということを考えてみましょう。

この先、車椅子生活が一生続くということは取り返しのつかないことであり、そのことを金額的に査定することはおよそ不可能のように思われます。その意味では、損害賠償の制度によって患者の損害が完全に償いきれるものではないことも事実です。

しかし、損害を一定のルールに従って金銭的に評価し、それを持って損害への償いをするという方法をとるしかないこともまた事実です。

損害の法的評価に際しては、被害者の年齢、職業、収入等も考慮のうえ、下半身不随という事故が発生したためにその被害者が失った利益を、金銭的に評価して賠償額を決定するのが一般的な考え方です。

損害の発生について、患者の側にも落ち度が認められる場合には、当事者間の公平を図るために、賠償額が減額されることがあります(過失相殺)。裁判では、患者の受診の遅れや医師の指示に従わずに飲酒を継続していたことにより過失相殺を適用した事例があります。

治療費、入院雑費、休業損害、慰謝料の計算方法

医療過誤で発生する民事責任は、損害賠償責任です。賠償が求められる損害の範囲は、債務者(医師や医療機関など)に過大な負担を課さないように、社会的に見て相当な因果関係の範囲内ある損害に限定されています。

医療過誤と相当な因果関係にある損害としては、①治療費、②入院雑費、③付き添い介護費、④休業損害、⑤逸失利益、⑥慰謝料、⑦葬儀費が挙げられますが、その計算方法は以下のように定められています。

治療費…症状の改善が期待できる治療ができなくなった(症状が固定する)時点で確定されます。症状が固定しない限り治療費の確定を行えないため、治療費の賠償請求は原則として認められていません。ただし、示談の際、確実に支払われる費用について、一時金として賠償されることはあります。

入院雑費…入院1日当たり1500円と金額は決まっています。これは個人差が生じて不公平になることを避けるためです。

付き添い介護費…症状が特に重く、介護なしでは生活に支障をきたすと客観的に判断されれば、損害として認められます。

休業損害…医療過誤によって発生した症状が固定するまで、患者は仕事を休まざるを得ません。そのため、休業によって発生した収入の減少分を、損害として算出します。

逸失利益…患者は、医療過誤による症状の結果、以後の労働能力の一部を喪失することになります(ex:タクシードライバーが手術ミスで足に障害が残り、車の運転が困難になった等)。その場合、その分の減収(逸失利益)について事前に賠償請求が認められています。

公平を期すために、次の計算式によって賠償額が算出されます。逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数です。ライプニッツ係数とは、将来の利息分について控除するために掛け合わせる数値のことです。

患者が死亡した場合には、生きていたなら支出したであろう生活費を控除する必要があるため、逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×ライプニッツ係数という計算式になります。

慰謝料…精神的損害を金銭に見積もったものであり、おおよその金額が先例に基づいて決まっています。入院1ヶ月あたり50万円程度です。死亡事故では、患者の家庭内における立場によって異なります。後遺症については、等級が基準となります。

一般的には、医療事故における慰謝料の金額は、同じ結果を交通事故などで引き起こした場合に比べて低くなります。なぜなら、医療では患者の疾病というリスクが最初から存在しており、それに対して危険性のある医療行為を善意で行いますので、仮に過失で悪しき結果が発生しても、非難すべき点は比較的少ないという面があると考えられるためです。

葬儀費…葬儀の規模に関係なく、150万円とされています。

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