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検査や手術における手技ミスは医師が過失を争うことが難しい

内視鏡などの浸襲的な検査や手術の過程における手技ミスは、医療過誤が起きれば医師は過失を争うことが難しくなります。

検査や手術の結果、患者の容態が悪化するなどの結果が生じれば、何らかの手技ミスがなければそのような結果は起こらなかったであろうと考えるのが自然だからです。

例えば、大腸内視鏡検査の後、患者が腹膜炎で死亡した場合を考えてみましょう。患者が大腸内視鏡検査の後、腹膜炎を起こしたとすれば、通常は内視鏡によってどこかに穿孔が生じたからであろうという推定が働きます。

したがって、医師は別の原因で腹膜炎が生じたと証明する必要が出てきます。この証明ができないときは、事実上穿孔が生じたことが推定され、同時に穿孔が生じたということは内視鏡の際に何らかのミスがあったと推定されます。

つまり、この事例では大腸内視鏡検査の直後に腹膜炎が生じたという事実が明らかになれば、医師が責任を負わされる可能性が高くなります。

医師の過失が推定された例として、慢性副鼻腔炎の治療のために手術を行った際に手術器具の操作により患者を失明させた事案について、東京高裁は、「手術の過程で失明の結果が生じたい上、それが不可抗力によるものか、少なくとも現在の医学知識を以ってしては予測し得ない特異体質等などの立証がない限り、当該手術を行った医師に過失があったものと推定すべきである」としています(昭和44年)。

患者側から手技ミスの主張に対して、医師の反論としては、①不可抗力を基礎付ける結果に対する他原因の存在の主張、②原因に関しては患者の主張を認めるものの、適正な手順を踏んで行ったから過失にはあたらないとの主張が考えられます。

①の他原因の主張は、因果関係の問題でもあり、例えば顔面痙攣の患者が脳神経減圧手術を受けたところ、手術後に脳内血腫を生じて約2ヵ月後に死亡したという事案があります。

このケースでは、原審の大阪高裁が「高血圧性脳内出血等が血腫の原因であるとしても不自然ではない」として、患者側の請求を退けたのに対し、最高裁は「①高血圧性脳内出血の発症率は1割程度であること、②病理解剖で手術を行った脳の右側に病変が強く現われていること、③患者は手術前に高血圧ではなかったこと」などを理由に原判決を破棄しています(平成11年)。

因果関係に関する裁判所の「高度の蓋然性が認められる限り因果関係を認める」という考え方を前提とする限り、手技ミスに関する医師の不可抗力を基礎付ける他原因の首長は、よほどのことがない限り通らなくなっています。

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