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医師の過失行為と結果との因果関係

医師に過失行為が認められ、患者が亡くなっても、その両者の間に因果関係がなければ、損害賠償責任は発生しません。これは患者の死亡が医療ミスによる損害であるとはいえないからです。

例えば、心臓に持病がある患者がほかの病気の手術を受け、手術器具の消毒が不十分であったため、患部が化膿し、微熱が続いている状況のなか、急性の心筋梗塞で死亡したとします。

この場合、病院側に手術上のミスがあったことは明らかです。しかし、患者はもともと心臓が悪かったことを考えると、それが原因で心筋梗塞を起こし、死亡したものと考えられます。
したがって、医療事故と損害の発生との間には因果関係はなく病院側に責任は発生しないことになります。

ただし、因果関係の判断はそう簡単にいかないのが実情で、その有無を巡って訴訟で争った例は数え切れないほどあります。例えば、この事例にしても、手術器具の消毒不十分による患部の化膿、さらには微熱の継続が、患者の体力の低下をもたらしたり、心臓の負担を重くしたりします。そして、そのことが引き金となって心筋梗塞の発作が生じて死亡に至ったとすれば、因果関係の有無は微妙になります。

人間の身体について事後の時点から十分な検証を行うことが非常に難しく、そもそも何らかの疾患を抱えていたからこそ病院で医療行為を受けていたのであり、「医師の○×という行為がなければ、△○という結果は発生しなかった」という主張は仮定的な判断(予測)を内容とするため、容易に明らかにできるケースは多くありません。

因果関係の存在については、法律上は、医療機関側の責任を追及する患者側(原告)が証明する責任を負担しており、最高裁は証明の程度として、「特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑をさしはさまない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし・・・」としています。

このように、因果関係の証明は患者側に困難が伴うため、証明の程度を軽減させる考え方や心証の割合に応じて損害賠償額を決定しようとする考え方が主張されています。

さらに、因果関係の証明が果たせない場合に患者側を救済するために、医師が適切な治療行為を行ってくれるとの「期待権」を裏切ったことを理由とする損害や延命利益の侵害など、問題を因果関係から損害論に移して解決を図ろうとする裁判例も出てきています。

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